【Chris Lord-Alge(クリス・ロード・アルジ)が語るMixのTips】から学ぶミキサーの心得 vol.1

ちゃたけです。

僕は、レコーディングエンジニア・ミキサーだ。
…忘れてたでしょ?

グルメやら猫やら車中泊快適化計画やら、音楽に関係ないことばっかり書いてて、何やってる人か忘れられがち。
たまには…そろそろ…真面目に音楽の事、ミキサーらしい記事も書いとこうね。

いや、書く気はいつだってあるんですよ?
ただ、ひたすらマニアックな内容になっちゃうし、いざ書くとなると真面目に考えちゃって気楽になんて書けないからね。
重くて敬遠しがちなの。

それが、急に一念発起して真面目に音楽の記事を書こうと思ったのは、Facebookだったかな、ある記事の動画が偶然目に入った。

世界一有名なミキシングエンジニアと言われる、
Chris Lord-Alge(クリス・ロード・アルジ)
がインタビュー形式で送るミキシングのTipsムービーだ。
エアロ・スミス、ミューズ、グリーン・デイ、U2、ニッケルバック、ナイン・インチ・ネイルズ、フー・ファイターズ、グー・グー・ドールズ、アラニス・モリセット…
Rockシーンを牽引するTopエンジニアが語る、ミキシングのTips。

興味津々でYouTubeの動画を見てみると、そこで語られていたのは、EQやコンプの使い方やエフェクト処理の具体的なノウハウなんかではなく、お仕事としてミックスを的確にスムーズに進める為の、ミキサーの心得だった。

その内容はとても共感できる事や、ハッと再認識させられる事ばかりで、実際に自分がミックスする際に気をつけている事や、経験上実践してきた事だった。
テクニックだってもちろん大事だが、その前に、プロのエンジニアとしての仕事の進め方や心構えは非常に大切だ。

ただ動画をシェアするだけなら簡単だが、インタビューでは短時間で簡潔に概要だけを語っている。
せっかくだから、その内容を掘り下げて、僕の経験から補足出来るような解説やエピソードを交えて紹介していこうと思う。

僕の説明じゃ説得力が足りない?
でもクリスが言ってると思えば耳を傾ける気にもなるでしょ?

堅苦しい内容になるかもしれないが、せめてクリスが語る動画だけでも見ていって欲しい。
どれも3~5分と短い時間に大事な内容が詰まっているので、退屈なんてしない。

Tips動画は5つに分かれているので、動画に合わせて記事も5回に分けて書いていこう。

まず最初に、vol.1。

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【Chris Lord-Alge(クリス・ロード・アルジ)が語るMixのTips】から学ぶミキサーの心得 vol.1

ミックスの準備は万端?CLAが語る、ミックスを始めるためのTips
ミックスの準備は万端?CLAが語る、ミックスを始めるためのTips

クリスはイスラエルのテル・アビブまで、8,000マイルもバスに揺られて行ったんだねぇ(棒)
キング・オブ・深夜バス「はかた号」何回分だ?
確実に人間壊れるね。。。お尻が何個に割れるだろう。。。

久しぶりにお姿を拝見したけど、随分とお腹出ちゃって…

この動画のクリスの話を聞いただけでしっかり理解できて共感できる人は、きっと豊富な経験を積んだ人で、既にプロのエンジニアとして活躍している方だろう。
皆、誰に教わったわけでもないが、意識せずともきっと普段から自然と実践している内容なはずだ。
だが、ピンと来ていない人は、自分の楽曲だけをミックスしたことがあるミュージシャンだったり、まだまだ駆け出しのエンジニアだったり、他人の楽曲のミックスを任された経験が少ない人かもしれない。

ミックスにはルールなんて無い。
誰でも戸惑い迷うもの。

ミックスに悩む人達に向けて、この記事では動画を紹介しつつクリスの話に沿って解説していこう。

関連するであろう大事なTipsも、僕の経験則から追加して書いていく。

「ミックスで自分が何をすべきか把握して、ミックスの前日までにファイルの準備をしておくこと!」

「ミックスの当日に準備を始めるなんて言語道断さ」

これは、忙しいであろうクリスの様に、自分のプライベートスタジオや外スタジオでのミックス日のスケジュールが事前に確定していて、事前にデータを受け取れている状態には当てはまる事だが、実際には、ミックスの依頼を受けた直後にデータが送られてきて、そのまま作業になだれ込む事や、レコーディングからミックスまで流れで行うことはいくらでもある。

ミックスをする日と、事前の準備をする日、なんて線引きがうまく出来るとは限らないが、出来るだけミックスを開始するまでに必要な作業は事前に済ませておこう、という事だ。
ミックスするのに大切なエネルギーは、全て創造的なことに使うべきだ。

トリートメント、いわゆるお掃除やリージョンのクロスフェード等は、レコーディングをした日に終わっている事がベストだし、アレンジ上必要なエディットもミックスの前には終えて、アレンジが確定している事が理想だ。

“整理されていないセッションファイル” がミキサーの手に渡るのは望ましくない。
テイクのコンピング(セレクト)、エディット、トラックの掃除、ドラムサンプルの差し替えや追加等の作業は、ミックスをする前に済ませておこう。
というのは、優秀なアシスタントも抱えるクリスだから言えることではあるので、プロジェクトやその人によって事情は違う。
実際にはミックスを開始してからドラムサンプルを足したり、キックやスネアを差し替えたり、歌のピッチを直したりをすることは普通にありえるし、それもミックス作業の一部であるとも言える。
ミックスとエディットは隣り合わせで、切っても切り離せないもの。
エディットで作り出すエフェクトもいくらでもある。
だが、歌やギターソロのテイクがセレクトされておらず、OKトラックも確定していないなんて状態はとても許されないし、ミックスを開始できる段階に到達していない。

レコーディングしたエンジニアがそのままミックスまで任される場合は、作業の順番や線引きが多少あいまいでも構わないが、ミックスエンジニアに託す場合は、データを渡すまでに決めるべき事は決め、お掃除やアレンジの確定の為のエディットは済ませておくべきだ。

整理されたセッションファイルを渡せば、ミキサーは迷わず戸惑わないでクリエイティブなミックスに集中できる。

ミックスを始める前に整理整頓しておいて準備万端にしておくこと

「全てのトラックを、常に同じ場所と順番で並べておくこと」

全てのトラックを、常に同じ場所と順番で並べておくことで、慣れ親しんだ順番で対応でき、すぐに手を延ばせる。

今どきの楽曲はとにかくトラック数が膨大だ。
100トラックを超えるなんて事もザラにある。
渡されたセッションファイルに並んでいる膨大なトラックが、何の規則性も無くバラバラに並んでいたら、目的のトラックを探すだけで時間がかかってしまうし、いつまで経っても全体像が掴めない。

セッションファイルを開いたら、まずは整理整頓しながら全体を把握する。
トラックを、自分なりのルールで良いからわかりやすい順番に並べて、トラックの色も出来れば自分なりのルールで色分けして、ルーティン化して一目瞭然にしておく。

セッションのレイアウトをルーティン化しておくこと

セッションを届いたままの状態で作業を始めるのではなく、自分に合わせてすべて扱いやすい場所に収める。

ロケーション・ルーティン

Pro Toolsでミックスする以前は、大型コンソールとデジタル48chテープレコーダーの組み合わせだった。
テープレコーダー内の録音トラックは、後から順番を入れ替えるなんて事は出来ない。
放っとけば、録音されたそのままの順番でコンソールに立ち上がる。
そこに有用な規則性はほとんど無い。

ミックスする際は、コンソールに立ち上げる順番を好みに入れ替える為に、パッチベイでクロスパッチをして、端っこにドラム、センター近くに歌、という風に都合の良い配置に変えていた。
コンソールの端には手が届かないので、立ち上がるかイスごと移動しないと触れない。
ドラムは一度音作りを完成させたら、もうそんなに頻繁に触ることもないので端っこでも良い。
カテゴリーごとのボリュームならグループ化しておけば、センターにあるグループフェーダーでまとめて上げ下げ出来る。

一番長い時間触れるであろう大事な歌を真ん中に持ってくれば、センターのリスニングポジションから外れること無く、手を延ばすだけで音作りやフェーダーを触れる。
反対の端っこには、特にコンソールを弄る必要もないリバーブやディレイ等のエフェクトのリターンを立ち上げる等、アナログコンソール時代にもミックスエンジニアはそれぞれ自分のルールに従ってロケーション・ルーティン化していた。

今やPro Tools等のDAWは全てが画面の中にあるので、トラックを並べる順番は、パッと目的のトラックを見つけやすく、自分が生理的に触りやすいという点に特化すれば良い。
ドラムを最初に持ってきたり、歌を最初にしたり、逆にオケの最後、マスターフェーダーの隣に持ってきたり。
同時に色分けもして、迷子にならないように工夫する事でルーティン化できる。

このルーティン化する作業を事前に、もしくはミックスの最初にやることで、自分に適した扱いやすいセッションデータになる。

例えば、僕のロケーション・ルーティンのルールは…

最初に、クライアントのラフミックスや資料音源。
ミックスするトラックと混同しないように、ブランクのAUXトラックを挟んで、次に、ドラムやパーカッション、リズムLOOP等のリズム関係を並べる。
リズム系の色は緑。
バスでまとめているトラックは、素材トラックを暗い色に、まとめた先の出力するトラックは明るい色にする。
ドラム内も自分のルールに従って並び替える。
HH、KICK、SN、Tom、Top、Amb、Drum Masterの順。

ドラムに続いて、ベース、ギター、シンセ・SE等。
ベースは茶・黄土色系、ギターは青、シンセ・SE等は黄色。

ドラムやベースが最初に来ているのは、ミックスする音作りの順番が、僕は土台となるリズム隊から作っていくタイプなので。
見やすさと同時に、基本的には並べた順番の上から音作りしていく。

オケの次は歌関係。
ボーカルは赤系、コーラスはオレンジ系。
とはいえ、使える色には限りがあるので、わかりやすいように色分けを工夫していく。

次に、マスターフェーダー(実質、モニター用マスター)と、全てのトラックの行き先となる録音のマスターバス(実質、マスターフェーダー)、各種エフェクトを立ち上げたAUXリターン。

ややこしいあみだクジになっている理由は…

各トラックの行き先をマスターフェーダーにすると、ファイナルミックス作成の為にはバウンスすることになるが、時短しようとオフラインバウンスするとリアルタイムで聞きながら落とすことは出来ないし、リアルタイムで鳴らしている場合とバウンスで書き出したMIXが全く同じか疑心暗鬼になる。
リアルタイムで鳴っている、今聞こえているミックスを信じたい。僕のやり方は、全てのトラックのアウトを録音用に決めたバスでまとめて録音のマスターバス(AUX)に送り、そこでマスターのエフェクト処理をしたものを録音用のオーディオトラックに送って、リアルタイムで聞きながらファイナルミックスを録音している。
作業時は常に録音トラックをインプットモニターにしている。
録音トラックのアウトをマスターフェーダーにアサインして最終的にモニターしている。

聞きながら、波形を確認しながらファイナルミックスを落とせる利点と、マスターフェーダーだけはインサートがポストフェーダーになっている仕様を嫌っての事だ。
普通、インサートはプリフェーダー。
なぜマスターフェーダーだけポストフェーダー仕様なのかは謎だ。
ポストフェーダーだと、フェードアウトしていけばコンプレッサーやマキシマイザー等のインサートエフェクトへの入力レベルが下がってしまい、音質やバランスが崩れてしまうのが問題となる。

マスター類、AUXリターンの次に、録音トラックであるファイナルミックストラック。
古いNGテイク、MAIN MIX・TV MIX(カラオケ)・INST等のOKトラック。
ファイナルミックストラックは赤色。

最後に、依頼されればだが、ステムトラックや各パートをエフェクト付きでバウンスしたLIVE音源用のトラック。
LIVE用トラックは水色。

色分けしておけば、ミックスウィンドウも視認しやすい。

歌関係はオケの最後、マスターフェーダーの隣がアナログコンソール時代から定番の位置。

これらトラックの順番や色分けは、各々が自分の作業しやすい様に好きに決めればいい。
慣れや生理的な要因があるので、個人によってハマる並びや色は違うだろう。
一度ルールを作ってルーティン化してしまえば、作業効率は上がるし、処理のし忘れ等のミスも減る。

vol.1 まとめ

ミックスを始める前に整理整頓しておいて準備万端にしておくこと
セッションのレイアウトをルーティン化しておくこと
“ロケーション・ルーティン”

vol.1は以上です。

参考になったでしょうか?

続きの動画と解説は次の記事で。

vol.2へ、つづく。

ちゃたけ

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