ちゃたけです。
前記事、vol.4では、
・一番重要なTipsはモニター
・モニターリファレンス=基準
・基準は自信へと繋がる
・ミックス中は可能な限り音量を下げて作業することが長時間判断力を保つコツ
・自分のモニター環境を知り抜いて一定に基準を保つこと
・作業前・作業中にリファレンスとなる曲を聞くことで基準を確認すること
・クライアントの意図をまず理解する所から始め、そこから自分の望むもの、オリジナリティを加えていく
・コミュニケーションを取ること
・全てのアプローチに必然性があること
を学びました。
自信を持って戸惑わないでミックスを進める為に、
「基準」
が非常に重要だということですね。
それではいよいよ最終回です。
あとちょっと、頑張って!
vol.5です。
【Chris Lord-Alge(クリス・ロード・アルジ)が語るMixのTips】から学ぶミキサーの心得 vol.5
コンプをかけるべきでは”ない”トラック
「全チャンネルにいきなりコンプレッサーをかけるのではなく、最初はフェーダーだけでバランスを取ること。」
「曲を聞き、理解が深まるまで処理を始めてはいけない。
その曲が必要としている処理を知ること。」
セッション全体を見渡して、全てのトラックをチェックして問題を洗い出し、クライアントのラフミックスを聴いたところで、どう処理するべきか考える。
非常に大事なことで、簡単で当たり前の事のようにも思えるが、実は意外と難しい。
締め切りが迫っていようがいまいが、作業を焦る気持ちは誰にでもある。
早く理想のサウンドに変えたい。
ミックスの経験を積んで慣れてくると、素材の音を一瞬聞いただけで体が勝手に反応して、考える前に処理を始められるようになる。
コンプをかけようと思った時にはもう、トラックにインサートされているくらいだ。
vol.1や2で触れたように、ロケーション・ルーティンやテンプレートセッションを実践していれば、なおさらコンプレッサーやEQに手が延びるのは早くなる。
準備段階でテンプレートセッションから必要なプラグインチェーンをインポートしたとしても、それをトラックにコピーしたとしても、まずは元の録音された素の音を必ずしっかりと確認しよう。
ドライな状態でフェーダーだけでざっくりとでもバランスを取った状態で曲を最後まで聞き、ラフミックスと聴き比べる。
そうすることで発見できることは多い。
楽曲の本質(ハート)を理解し、理解をまず深めるということが最初にすべきこと
曲全体を聞いて把握するまで処理をしない
コンプレッサーをかけるということは、ダイナミクスを失うということ。
全てのトラックを、考えもなしに一律に平坦になるようにコンプレッションしてしまえば、楽曲のダイナミクス、すなわち勢いや躍動感が失われる。
ダイナミクスや躍動感は、聴く人の心を動かす原動力だ
そして、
一度失ったものは取り返せない
もちろん、立ち戻ってコンプの設定を見直せば失ったダイナミクスを呼び戻すことは可能だ。
だが、ダイナミクスを失った音をその後のシグナルルーティングの行き先で、どんなプラグインを足そうとも失ったダイナミクスを取り返すなんて事は出来ない。
全てのパートがそれぞれのダイナミクスを持っていて、それがパズルのピースとなり複雑に噛み合っている。
整形が必要なピースもあれば、そのままで充分なピースもある。
それを見極めて、どのような処理が必要か必要で無いのかを瞬時に判断する。
コンプのかけ過ぎは禁物
コンプレッサーは麻薬みたいなもの。
かけることによって、暴れていた自由奔放な演奏を理想のダイナミクスに収められ、整理整頓出来ることはきっと気持ち良いだろう。
理想のダイナミクスに圧縮してゲインを持ち上げればグッと力強い音になる。
存在感や説得力が増す。
でも、整理し過ぎたトラックは、オケの中に埋もれ、勢いを無くし、それが積み重なれば楽曲全体のダイナミクスは失われ輝きも失う。
全てのトラックに一律に強い説得力や存在感が必要なわけでは無い。
コンプをかける時は周りをよく見て
オケの中でのその楽器の立ち位置を見極めて、必要最低限のコンプレッションから始めるといい。
ソロを外して周りと合わせた時に、コンプレッションが足りないのかtoo muchなのか判断して、足し引きしていこう。
コンプレッションが必要無ければ当然かけなくていい。
EQでトーンの調整をするだけで充分かもしれない。
素晴らしい演奏で適切な録音がされていて、楽曲のアレンジにマッチしていて、ミックスの中の立ち位置にもばっちりハマっているのなら、何も手を加える必要なんて無い。
フェーダを上げるだけでいい。
代表的なコンプレッサーであるUrei 1176について以前書いた記事があるので、そちらも是非参考に。
ミックスは耳でやるもの、目で追うものじゃない
「見なくちゃいけないのはメーターで、波形ではない。」
「音楽に集中し、オーディオを見るのをやめる。」
テープレコーダーの時代は波形が見えなかった。
耳とメーターだけで判断し、それでもパンチインは今よりも正確に針の穴を通すような正確さだった。
Undoなんて出来ない。
消えてしまった演奏は二度と取り返せない。
耳から聞こえてくるものに今よりもずっと集中していたから出来たことだ。
今みたいな波形とは姿は違うかもしれないが、目を閉じ、聞こえてくる音に集中していれば、スクリーンなんて無くても、脳裏に、瞼の裏に音の粒立ちや輪郭がはっきりと立体的に見えていた。
だがそれは、今だって出来ること。
目を閉じて今聞いている音楽に集中する。
スクリーンに映っている波形は、ミックスにおいては目安でしかない。
演奏のローケーションを示すキュー。
波形の見た目が良ければ音もいい、というのは全く根拠のない勘違い。
どんな歪な形をしていても素晴らしいサウンドはいくらでもある。
必ず耳で判断し、それがかっこいいなら波形の形は問題にならない。
見た目は関係ないのだ。
ミックスは耳でやるもの、目で追うものじゃない
Auto-Tune等のボーカルピッチ編集も同じこと。
表示されたピッチのラインは目安でしかない。
ラインがピッタリ正解の音程に合っているからといって、それがゴールではない。
周りのオケだって全てぴったりピッチが合っているわけではなく、揺れているし、倍音だってある。
アンサンブルの中でピッチやタイミングを判断するべきだ。
見た目で判断せず、必ず耳で聞いて判断し、自分の耳を信じること。
オーディオの編集の際には、波形が見えるのは大いに役立つ。
これはテープレコーダーの時代には不可能だった事だ。
もちろん最終的な判断は耳でするべきだが、目に見える情報は必要不可欠。
拡大
さらに拡大
DAWでは、オーディオをかなり拡大して表示できるのでリップノイズを探してピンポイントで消すことだって簡単にできる。
明らかに演奏しているはずの無い部分のノイズやゴミも一目瞭然だし、テープレコーダーでは絶対に繋がらないような編集でも、DAWなら拡大してうまくやれば繋げられる。
ミックスにおいても波形の編集はどうしても必要になる。
編集で作り出すエフェクト効果やギミックも効果的だしミックスの一つの手法だ。
音作りが進んでラウドになって初めて気づくノイズもあるだろう。
編集とミックスは隣り合わせで、切っても切り離せないもの。
それでも、音を加工する、バランスを取るというようなミックスの過程では、波形の見た目に囚われず、自分の耳から聞こえるものを頼りに判断すべきだ。
“エンジニアは目じゃない。耳でやるもの。”
目を瞑り、耳を澄まして、自分がやるべきことを見極めよう。
vol.5 まとめ
・曲全体を聞いて把握するまで処理をしない
・コンプのかけ過ぎは禁物
・ダイナミクスや躍動感は、聴く人の心を動かす原動力だ
・一度失ったものは取り返せない
・コンプをかける時は周りをよく見て
・ミックスは耳でやるもの、目で追うものじゃない
以上、vol.5でした。
【Chris Lord-Alge(クリス・ロード・アルジ)が語るMixのTips】から学ぶミキサーの心得
全5回に渡ってお送りして来ましたが、いかがだったでしょうか?
「コンプやEQのオススメの設定はこれ!」
「あの曲のあのサウンドはこのプラグインで作れる!」
みたいな具体的なTipsじゃなくて物足りなかったですか?
それは他人に教えてもらうような事ではなく、自分でミックスの中で成功体験をして見つけていくものです。
自分で苦労して編み出したサウンドやテクニック、ノウハウは、必ずあなたの引き出しとなってずっとこれからも役に立ち活躍します。
クリスが語ったことや、ここで書いてきた心得や心構えは、そんな具体的な情報やテクニックなんかよりもずっと大事で、音作りの前にプロとして必要なものばかりです。
活躍している、多くのアーティストから信頼されるプロのエンジニア達が、誰から教わることもなく、自分が長い時間をかけて失敗や成功を積み重ねてきた経験から、自然と実践している心得や心構えなのです。
ここに書いてきたことがミックスの全てではありません。
これらはほんの一部。
動画を見たり記事を読んだだけですぐに身につく事でもありません。
それでも、ここまで読んでくれたなら、以前より意識は高く変化しているはずです。
僕も動画を見て、クリスの言葉でハッとする事はいっぱいありました。
忘れていた事、共感できること、色々考えました。
その考えた色々をここに書いてみました。
不安な気持ちで戸惑いながらミックスをする全ての人に、ここに書いてきたことが少しでもお役に立てればいいな。
ここまで読んでくれてありがとうございました。
そして、お疲れさまでした。
Enjoy Mixing!!
それでは。RTB。
ちゃたけ